第12章 夏の思い出
「ってそうだ、お前また熱くなってんじゃねえか。とっとと冷やし直して…」
『中也の手で冷やしてもらったらすぐに治っちゃうかも』
「あああそれならもうずっと撫でて……じゃねえよ、流石にずっとは出来ねえわ」
『じゃあもっとちゅーした「お前俺に仕事させる気ねえだろ」お仕事…今初めてお仕事嫌いになった』
むっと頬を膨らませる。
こんなに嫌に思ったのは初めてなんじゃないだろうか、中也をこんなにも一人占めしたいだなんて。
「お前本当風邪ひいたら酔った時みてえに素直…!お前、あの矢と弾丸の構造見た時になんか思い当たるもんがあったような顔してたよな?知ってんのか?あの構造の武器のこと」
「ちょっ!?知ってるような顔って…蝶が中原さんに嘘つくわけが『知ってる』……あんのかよ!?」
立原の声にコクリと頷いて、中也の目を真っ直ぐ見据えて説明した。
『構造自体はちょっと頭がきれるひとならすぐに思いつく物だけど』
「いや、あんなもん誰が思いつくんだっつの。お前くらいだろそんなレベルの頭の良さの奴とか」
『…いるよ、どこの世界にも頭が回る人なんて』
立原の質問に対する私の言葉にピク、と中也が何かを勘づいた。
『あれ自体は誰でも思い付くだろうけど、これくらいの文明だったら作る方が難しいから……かなりの資金力がある人。金額的にいえばフランシスさんくらいの資産を持ってなきゃ、この世界に現存するだけの材料を入手して加工なんて出来ないはず』
正確に言えばフランシスさんが持っていたくらい、だ。
あの人は今新しく株を使ってまたお金を大量に稼ぎ始めたらしいのだけれど、それでもまだまだ前程ではない。
あれに匹敵するくらいの物がないと、あの武器は普通作れない。
「んな金持ってる奴なんかそれこそ組合の長くれえしか…それか世界的に有名な奴とかくれえだろ、そんな馬鹿みてえな資金力」
『マフィアの幹部くらいの給料をひたすら何十年も貯め続けてれば…』
「でもポートマフィア内で蝶を狙うやつなんか、せいぜいあの新入り三人くらいのもんだろ?」
『多分…だから分からないの、せめて私を撃った犯人だけでも分かればまた進展するかもなのに』
ううん、と頭を悩ませつつも、もう一度毒の成分を検出してみようと試みているらしいので、その結果を大人しく待とうと落ち着かせてこの話題は幕を閉じた。