第12章 夏の思い出
確かに考えてみれば、お前呼びのように下の名前で呼んでもらうのも特権だった。
中也さんが下の名前を使うような時なんて、トウェインさんやイリーナ先生のような外国の人か紅葉さんくらい。
しかし紅葉さんなんかは言っても姐さんで通ってるし、そう考えると女の子で名前で呼んでもらってるのなんて私くらいのもの。
というかそもそも女っ気があんまり無い。
「ちっせぇ頃から敬称つけてっから癖なんだろうが、実質お前の方が歳上みてえなもんなんだからな?分かってんのか?」
『…蝶は十四歳ですが何か』
「……言うじゃねえか」
悪戯に笑って中也さんの体に腕を回して、一人で色々と納得した私は御機嫌になる。
そうか、中也さんもそういうのが欲しかったんだね。
あったら嬉しいもん、よく分かるよ。
『そうだなぁ……じゃあね、十四歳らしく生意気に中也って呼ぶ』
「お、その意気だ。どんと来やがれ反抗期」
『反抗はあんまり出来ないかなぁ…強いて言うなら……』
「あ?……っ、うお…!?」
体を起こして、中也さんをトン、とベッドに押し倒す。
上から中也さんの体の横に片手をついて覆いかぶさり、もう片方の手で私がされていたように中也さんの頭をふわりと撫でる。
目を見開いて私を見上げる中也さんは何も言えないのか口を薄く開けている。
こんな表情さえもが愛おしい…私に向けられる、感情の大きく表れた表情がたまらなく愛しい。
薄く微笑んでからまた悪戯な顔をして、中也さんに顔を近付けた。
『………思春期かな』
「…お前俺の事煽ってんのか?」
『煽ってる』
「生意気上等…嫌いじゃねえ……な!」
『へ…っ、わっ……!?』
ゴロン、と無理矢理中也さんに体勢を崩された上に仰向けにされ、今度は中也さんが上から覆いかぶさってきた。
そして私がした様に顔をグッ、と近付け、同じようにしてやったり顔を向けられる。
「だが生憎、俺はする方が好きなんだよ…悪いな」
『あ、あの…っ……』
「近ぇから恥ずかしいとか言うんじゃねえぞ、お前からしてきたんだからな。本当、こういうのに限って学習しねえ奴」
頬に手を添えられて顔を上げさせられ、目を逸らすことも出来そうにない。
恥ずかしさに何も言えなくなっていたその時だった。
「「「白石に何してんだあんたは!!!?」」」
「『あ…』」
保健室の扉が開いた。