第12章 夏の思い出
『嘘、あんな量の血を抵抗もせずに一気に飲み干すとか……ッ、吐き出して!!そんなの飲んじゃ…っ』
「飲むくれえでんな騒ぐんじゃねえっつの、お前のやつくらい余裕で何とも思わな……ッ、は…っ?んだ、これ…」
『!!…ちょっと、待ってて……無理させてごめんなさいッ、本当にごめんなさい…!!!』
クラリとした中也さんは私にもたれかかってきて、その体を抱きとめて意識を集中させる。
中也さんの気分がおかしくなったのは当然だ、その原因の物質を早く取り除いて散布させなければ…
急いで処置をしたためか、すぐに中也さんは気分が元に戻ったよう。
何が起こったんだ?と首を傾げて私を見るも、すぐに目を見開いて呆然とする。
「ち、蝶……っ?なんでお前、泣いて…『馬鹿……っ、血なんて一気に大量に飲んじゃダメ!!二度とこんな事しないで!!!』蝶…?」
『鉄分の過剰摂取…ほんの少しならまだしも、体に悪いの!!飲んじゃダメなの!!!』
「…鉄だけお前が取り除いてくれたのか?」
『他にも色々ッ、私が今までいた世界で得ただけの体に害を及ぼす物質だけ無理矢理気化させて……絶対にもう勝手に血なんて飲まないで、下手したら中也さん…っ』
死んじゃうかもしれないんだよ。
言えなかった、この人は私と命の約束をした人だったから。
言ったところで、そうかとしか言ってくれなさそうだったから。
「悪い、今度から勝手に飲むのはやめておく……でもお前の血液はかなり特殊なはずだが、俺はそれを摂取しててもなんともねえぞ」
取り除いてねえんだろ、寧ろ力が湧いてきたような気さえしやがる。
中也さんの声に強く強く彼を抱きしめて、涙が滲むのも気にせずに泣きついた。
『中也さんは、血が固まらない人だから…私特有のそういうのはねっ?………私がというよりは、私の身体とか、この存在自体が認めた人の力に自然となってくれるものなの』
「そりゃあまた不思議なもんなこった…」
『中也さんとちゃんと話せるようになる前に、既に血液は固まらなくなってた。あれね、本当は私のために備わってるようなものなんじゃなくて……私が唯一従おうって、本能が思った人を助けるためのものなの。私特有の変なものは全部…全部全部、中也さんを助けるためにあるの』
思わぬ所で話したけれど、やはり軽蔑はされなかったのだろうか。
中也さんの腕がしっかりと回された。