第12章 夏の思い出
「え?見ない方がって…!」
少し目を鋭くすると何かを察して、カルマ君はイリーナ先生のところで合流しておくよとゆっくりと離れる。
分かってくれる人で良かった。
中也さんはそれで何かに気が付いたのだろう。
冷や汗をかきながら、目を見開かせたまま私に向ける。
『で?カイさん…貴方、分からないんですか?私がなんで怒ってるのか』
「ぐ、っ……い、今のは!?ま、さか貴女の能力で…ッ!!“息が吸えなかった”……!!!」
カイさんの声に表情を歪めて、薄く笑う。
「蝶!?お前能力は使わねえようにってあれ程『黙っててください』けどお前っ、それで誰かに何か仕掛けられでもすれば……っ」
焦ったような中也さんに目を向けると、にじみ出てしまった殺気のせいか、中也さんまでもが口をつぐむ。
『ふふ、大丈夫ですって。だってこれは、“策の練りようがない”類のものなんですから』
「!!!策の…練りようがない……っ?」
『そうですよ、元々は人を殺すために使ってきたものですからね。まだ簡単で比較的楽な方ですが…で、何か言いたい事はありませんか?一応今私、ちょっと怒ってるんですよねぇ』
ちょっとなんて口では言っているものの、正直殺さないように、下手に能力を晒さないようにと必死だ。
傷口があるふりも続けているし、何よりまだ意識を保たせるのに…気絶させてしまわないようにするのにもの凄く必死。
「……ですがソラを殺すのは、貴女にとっても好都合であったはずです!!それがどうし…っっ!!!……カ、ッ…___」
「!!おい、手前!?………気絶か?」
『はい、連れ帰って尋問するにはこれが一番かと…馬鹿な人。狙うんならとっとと狙って、私の知らない内にしておけば楽だったものを』
中也さんはカイさんを担いで私の前に膝をつく。
こういう職業柄、私の行為に引いているわけでも恐れているわけでもないらしい。
その辺は本当に安心出来るし、信頼してる。
「怪我は…もだが、具合は」
『もう平気。ちょっとまだダメージ残ってるけど…浴衣汚しちゃったなぁ。ごめんなさ……ッ?』
表情を柔らかくして謝ろうとすると、カイさんを横にならせてから私を弱く抱きしめた。
ダメージを気にしてか強くはされないけれど、腕が震えてる。
「謝ってんじゃねえよ……ありがとう」
『!どういたしまして…苦しいよ、中也さん』