第1章 美恵の妄想
美恵は少し駆け足で帰宅した。最も、走る必要などないのだけれど。
それぞれ違う方向を向いて、無造作に脱がれた靴もそのままに、美恵は自分の部屋にある鏡の前に立っていた。
美恵の全身全てが映るほど大きな姿鏡。中学校の入学祝に、父が買ってくれたのだ。
毎朝、美恵はこの鏡に自分を見ながら制服を着て、学校へ行く。そして今は、その制服を脱ぎ始めている。
ブラウスと擦れ合い、シュルッという音がなり、制服のリボンが解かれる。まるで、今日一日縛り付けていた気持ちまで解放されるような気がした。
今日だけではない…。春に学年が一つ上がり、クラスが変わってからずっと押さえつけている気持ちがある。
ブラウスの一番上のボタンを指ではずし、二つ目をはずすしていくうちに、少し汗ばんだ鎖骨が露になっていく。
三番目と四番目のボタンをはずすと、膨らんだ胸が顔を出す。
白いブラウスとキャミを脱ぎ捨て、一旦自分の姿を再確認する。決して大きいとは言えないけれど、順調に育っている胸の大きさを、ブラの上から触りながら確認してみたり。
この胸を覆っているブラのように、その胸のもっと奥不覚に、美恵は熱くなった気持ちを隠している。
誰にも気付かれないように。ましてや「彼」にバレる事の無いように…。
まだスカートは履いたまま。
自宅には、今自分一人。たとえ下着姿でも平気。窓の外からは、まだ下校途中の生徒たちの、陽気なおしゃべりや、遠くへ呼びかけるような大きな声が聞こえてくる。
美恵の自宅は、学校からほど近いところにあるため、美恵がこうして自室で着替えている時間は、まだまだたくさんの生徒たちが、家の近くを歩いている。
スカートを脱いだ美恵は、もう一度姿鏡で、下着姿になった自分を見つめる。ブラウスから目立たないようにつけている、白いブラとパンツ。
今日、生徒として学校へ通っていた名残は、足先を包む紺色の靴下だけになった。
ふと…美恵は下着姿の自分と、外に流れていく生徒たちの声をリンクさせる。
もちろん、彼らは、すぐ近くの自宅、この寝室で美恵が下着姿でいる事など知る由も無い。それでも、こうして彼らのすぐ近くで下着姿でいるのは紛れも無い事実なのだ。