第40章 『ただいちどたけ』〜 相葉×二宮〜
それからの大騒ぎは、
正直よく覚えてない…
ただ、倒れたふたりの下の歩道に、
ゆっくりと血の輪が広がっていくのを、
その地獄のような光景を、
俺は、別の世界の出来事のような気持ちで見つめていた。
マンションのベランダから落ちてきたその子どもは、雅紀がワンクッションになったので、奇跡的に助かり、そして、
助けようとした雅紀は、
死んだ。
俺の目の前で……
俺の『答え』を聞くことも無いままに……
通夜の会場で、
助かった子どもの両親が土下座して雅紀の親に謝っていた。泣き腫らしてぐちゃぐちゃの顔で、
『申し訳ない』
そう言って頭を床に擦り付けた。
我が子は助かったのに……
その事を、申し訳なく思う親……
恨むなんて、それはお門違いだろう。
その子のせいでも、
その親のせいでもない。
偶然が引き起こしてしまった悲劇なんだ。
ただ、その場で立ち止まって話をしていた…そんな俺と雅紀が運が悪くて、
落ちてしまったその場に、お人好しの雅紀がたまたま居たことが、その親子の幸運だった…
それだけのこと………
葬儀までの時間が、慌ただしく過ぎていった。
同僚の俺は、葬儀場で駐車場の係をした。
会ったことも無い雅紀の同級生たちが、
肩を支え合って泣き崩れる様にやって来た。
黒い服の列の長さが……
雅紀の死を悲しむすすり泣きの声が…
あいつの人柄を表しているようだった。
でも………
俺は泣けなかった。
最後の様子を親に聞かせてやっている時も、
遺影のあいつが、俺に笑いかけても、
俺は泣くことができなかった…
お前って冷たいやつだな、と言われた。
目の前で仲良しの同僚が死んだっていうのに…
涙が出ない…
泣くことが出来ない……
なぜってさ…