第32章 『小人のくつや』~大野×二宮~
「泣いてたの?」
「...泣いてない...」
俺はそっとかずを手のひらに包んで外に出し、静かにテーブルに置いた。
裸のかずは、もじもじと恥ずかしそうに膝を擦り合わせた。
可愛い...
「着て見て♪」
「...うん..」
かずは俺が作った小さなグレーのパンツとチェックのズボンを履いて、黄色いトレーナーを着た。
「いいじゃん!ぴったりだよ~?」
「でも、ズボンがちょっとだけ長いよ~...」
少し膨れるかずに、
「かず...かずさえよかったら、ここにずっといてくれない~?靴なんか作らなくってもいいから」
「智...」
「かずがさ、ポケットの中にいる時ね、すげ~温っかかったの。かずがいるところから、じわ~っと体温が伝わって来て...
なんだか、心の中まで温っかくなったんだ..」
「......」
「いつも一人だったから、それが当たり前になってたけど、誰かがいてくれるって、こんなに温っかくって、幸せなんだって...そう思ったんだ。」
「...智...俺..」
俺の言葉を潤んだ目でじっと聞いていたかずから、ぽろっと小さな涙が零れ落ちた。
「かず...」
「智、俺ね...ずっと智のこと見てたんだ。
優しくて、せっかく作った靴、貧しいおじいさんにあげちゃったり。
最後の一個だったパンを、お腹を空かせた子どもに食べさせちゃったり...」
「そんな前から...」
「馬鹿が付くくらいにお人好しで、イライラするくらいに呑気で...」
「呑気って...」
「そんな智が...智のことが好きになってた。
こんな俺じゃ、ダメだって分かっていたけど...
智のために、何かしてあげたくて、靴を作りに来たりしてさ...」
ぼそぼそと打ち明けるかずが、もう、愛しくて...