第31章 『そうだ!銭湯へ行こう!』~松本×二宮~
夕暮れの海を見ながら、潤くんが静かに話した。
「初めて二之宮乃湯に行ったとき、何とも懐かしい、不思議な気がしたんだ...ずっと昔に来たことあるんじゃないか...って」
「昔に?」
気のせいだって思っていたけど、どうしても気になって、母親に電話して聴いたんだって。
潤くんのお母さんは仕事でずっとニューヨークに居て、年に数回しか日本に帰ってこないみたいで。
「母がさ、俺がまだ小さい頃、この辺に住んでいたんだって...その時、家の風呂が壊れて。
何度も銭湯に行ったっていうんだ...名前は覚えていないっていうんだけど、俺は、その話を聞いて、それは絶対にかずのうちの銭湯だって...そう確信したんだ...」
...潤くんが、子どもの頃に来ていた...
俺んちの風呂に...
そんな偶然があるなんて...
「だからさ、直ぐに上層部に掛けあってみたんだ。大正浪漫ストリートのこと...
そしたら、ちゃんと企画書にして提出して見ろって...
そっからはもう夢中だったよ...」
どんな仕事をしてるのかって、よく聴いたことなくて。
ひとつの街を創る仕事なんて、もう驚きしかない。
「かず...俺もできるときは銭湯の仕事、手伝ってもいい?」
潤くんにそう言われ、焦ったのは言うまでもなく。
「そんな~、潤くんにはお仕事があるじゃん、そんなこと無理に決まって..」
「俺がやりたいんだ...」
「...でも..」
「俺さ...両親が別々の仕事で忙しくて、家族が揃うことってほとんどなくて...
だから、かずの家が羨ましかった...いつもみんなが一緒に居て...同じ仕事してて...」
潤くんに、思ってもいなかったこと言われて、
俺は何だか照れ臭かった。