第31章 『そうだ!銭湯へ行こう!』~松本×二宮~
俺の話を聞き終わって、潤くんは難しい顔をして、考え込むように黙っていた。
「俺もさ、何とかなんないのかって思ったけど...家だけの事でもないし...大きな波には、飲まれるしかないのかな~ってことかな...」
「......」
潤くんは、じっと一点を見つめて難しい顔をしてた。
「...潤くん...ごめんね..」
「なんで謝るんだよ?かずは全く悪くないだろ~?
あの銭湯にくるお客さんのさ、ほんわかした雰囲気が全て、あの『二之宮乃湯』なんだよね...」
「うん...」
「なんとか、それを残したいな...都会のオアシス、なんだから...」
そんな風に言ってくれる潤くんが、俺には有り難かったし、もうそれだけでいいって、そう思っていた。
「潤くん...ありがと、もう..」
「待ってて!結論を急がないで!かず。俺ちょっと、考えたことあるんだ...」
「考えたことって?」
「今はまだ...言えるようになったら..つ~か、言えるように俺、頑張るわ!!」
頑張る...??
頑張るっていったい、何をどう頑張るっていうんだよ...
俺には、この時の潤くんが何を考えているのか、全く見えなかった。
閉店までは少し時間もあって...
父ちゃんは、土曜日にお得意様を無料で招待したり、最後のその日まで、可愛がってもらえる『二之宮乃湯』を目指すと言って張り切っていた。
終ってしまう...
取り壊しになってしまう...
そう思ってみると、壁一面の富士の山も、より一層美しく雄大に語りかけてくるような...
そんな気がした。
俺は、仕事の合間をぬって、時間の許す限り、銭湯の仕事に関わるようにして、毎日を過ごした。