第31章 『そうだ!銭湯へ行こう!』~松本×二宮~
考えてみると。
それまでは、イヤイヤやっていた銭湯の仕事。
番台に座り、潤くんと一緒に掃除したり、家に風呂があるのにわざわざ通ってくれる常連さんとの、他愛もない...それでいて温っかい会話をしたり。
俺は、いつの間にか、この仕事を好きになっていた。
そして、そんな毎日が、当たり前にずっと続くと信じていたのに...
「和也、すまないな...父ちゃんに甲斐性がなくて...」
「いや、そんなことないよ...仕方ないさ..」
がっくりと肩を落とす父ちゃんのことを、慰め、励ます言葉すら、この時の俺には見つからなかった。
週末の夜。
潤くんのマンションに来ていた。
「忙しそうだね...」
そう言う俺に、彼は、
「今やってる企画が通って、いよいよプロジェクトとして動き出すことになってさ~。俺がリーダーになったんだ!」
「へえ~...凄いじゃん...流石、潤くん..」
冷蔵庫から缶ビールを出しながら、潤くんは俺の隣に座った。
「かず...なんか、あった?」
「...なんで~?」
心配掛けまいと、わざと明るく笑ったけど、
「無理すんなよ...何があったの?」
潤くんは全てお見通しで...
澄んだ大きな瞳で見つめられて、俺は小さくため息を吐いた。
...無理だな~、隠してるなんてできない。
「あのさ...実は、二之宮乃湯、閉めるんだ」
「どうして!?お客さん来てるじゃん!」
「うん...まあ、儲かってるって訳でもないけど...実は...閉める理由は、立ち退かなきゃいけなくなったんだ...」
「立ち退く!?何で??」
俺がお父ちゃんから聞いた時より、ずっと納得できないっていう感じで、潤くんは俺に迫った。
俺は、事の成り行きを彼に話した。
再開発の話があった、5年前のことから、順を追って...
潤くんは、黙って俺の話を聞いていた。