第31章 『そうだ!銭湯へ行こう!』~松本×二宮~
俺と潤くんの関係はいたって順調で。
彼は、飲み会や泊りがけの出張以外の夜は、決まって俺ん家の銭湯に来た。
俺も仕事もあったから、毎日番台に上がる訳にもいかなかったが、それでも潤くんが来るときはほとんど行っていたし、遅くなった時は時間外に招き入れて、一緒に入ったりしてた。
そんなある日。
「和也、ちょっといいか...」
父ちゃんが俺のことを呼んだ。
「なんだよ~、んな、改まって...」
俺は内心、潤くんとの関係のことを突っ込まれるのかと身構えたが、親父から聞かされたのは衝撃の事実だった。
「和也...実はな、銭湯を閉めようと思うんだ...」
「えっ!?嘘だろ??」
「折角後を継ぐ気になってくれていたのに、申し訳ないがな~...この辺が都市計画の再開発地区になっていたんだが...いよいよ、立ち退かないといけなくなったんだ」
立ち退き?再開発?
そんなのずっと反対してたじゃん!
『代々続くこの銭湯を、俺の代で潰す訳にはいかない』って...そう言ってたじゃん...
「父ちゃんと戦っていた商店街の仲間も、もう立ち退きの同意書に判を押したんだよ...家だけなんだ...」
そんな!?
そんなことになってたなんて...
俺が、潤とふたり、甘く楽しい銭湯ライフを送っていた間に、事態はどうしようもないところまで来てしまっていた。
「なんとか、なんないのかよ?」
そう聞く俺に、父ちゃんは項垂れたまま、黙って首を振った。
......銭湯がなくなる...
俺と潤くんの、運命を変えてくれた出会いの場所。
『二之宮乃湯』
無くなるんだ...
半年前までは、潰れてしまっても構わないって...
そう思っていたけど。
......今は、何とかならないのか?って。
そればかりを考えて、仕事も手につかなかった。