第29章 Happiness~櫻井×二宮~
「...また、連絡させてもらうよ。」
東山さんは連れの女性もいるせいか、さっさと話を切り上げた。その時、俺を一瞬睨んだけど、直ぐに柔らかく笑って、
「お楽しみのところ、邪魔して悪かったね...」
と言った。
帰り際、俺の耳元に口を寄せ、
「彼は乗り心地抜群だろう~?」
と...そう言った。
それは...
頭をハンマーで殴られたような衝撃だった。
こんな風に、かずの恋人気取りで浮かれていたけど、彼は、俺との時間とは別のところで、他の男たちに抱かれてるんだ。
.....今さら何を?
分かりきってたことなのに...
その存在を目の前に突きつけられて初めて、その事実に気付いたかのような衝撃を受けるなんて。
急に無口になった俺に、かずは不安そうな顔になった。
「翔さん...東山さん、何て言ったの..?」
その声は微かに震えていて。
かずを不安にさせるつもりなんかないけど。
俺は、胸の中に渦巻く嫉妬の炎を、消すことができなかった。
「かず...あの人は、よかったの?俺より上手いの?」
「翔さん....」
俺のその言葉に、かずの顔がパッと曇り、
そして悲しそうに歪んだ。
でも俺は、もう止めることが出来なくて。
「あの人に比べたら、俺なんかじゃ物足りなかっただろう?
なんか悪かったな~、俺なんかに付き合って貰って..」
「翔さん!!酷い...そんな、こと...俺は..」
立ち上がったかずの目から、涙が溢れだした。
その顔を見て俺はハッとしたけど、
もう遅かった。
口から出てしまった言葉は、取り返せない...
「俺...帰る....」
「かず...」
かずは溢れ出す涙を隠すようにしながら、その場を足早に去った。