第24章 『恋人たちの棲み家』〜相葉×櫻井〜
「後、言っておくことはありますか?」
裁判長が、話し終えた俺に静かに言った。
「雅紀が俺に、手紙をくれて...大学に行けって...
だから、俺はもう一度、自分を見つめて、頑張ってみようという気になりました。
だから、心配しないで欲しい...
そう雅紀に伝えたいです。あいがとう、と...」
......涙がが出そうだった。
俺は喉にぐっと力を入れて堪えた。
...取り乱しちゃいけない...
未だに、雅紀を強く思っていることをここで話してしまうことは、雅紀にプラスではない...
雅紀と一緒にいたのは、俺自身が決めたことで、
雅紀は飽くまでそれを受け入れてくれただけ...
話し終えた俺の耳に、雅紀が小さくすすり泣く声が届いた。
雅紀...
雅紀......
堪えていた涙が一滴...
頬を伝わった。
側に行って抱き締めてあげたい。
雅紀のこと。
俺のせいで、全てをなくして。
誰もいない拘置所の中で、たった一人で...
雅紀...
ずっと会いたかった。
会って、抱き締めて欲しかった。
翔って、呼んで欲しかった...
雅紀...雅紀...まさき......
「翔くん」
我慢出来ずに立ち上がろうとする俺に、長野さんが静かに、でも有無を言わさぬ口調で言った。
「座ってください。今日はありがとう...貴重な意見を聞かせてくれて...
辛いことを、思い出させてしまいましたね...」
「いえ、そんな、ことは...」
我に返った俺は、また席に座った。
すぐ側にいる愛しい人の顔さえ見ることが出来ず、
俺は裁判所を後にした。
ここに来る条件として、親にはそのことを伝えないで欲しい、ということ。
俺の事件の後。
ふたりは離婚していた。
文字通りの、家庭崩壊だった。