第19章 『ささのはさらさら scene2』~松本×大野~
親元を離れて、小さなアパートで独り暮らしを始めた。
大学や、新しい友達にも少しずつ慣れて、
俺の生活も軌道に乗りつつあった。
翔と授業に出て、サッカーの同好会にも入り、
コンビニと家庭教師のバイトを掛け持ちし。
サッカーと、大学と、バイトと...
いろんな新しい出会いがあって、
俺は成長した。
それもこれも全部、智が望んでいたこと。
そんな生活も、それなりに楽しかったけど、
心の底から笑ったってことはなかった。
いつも、同じ笑顔を作っていたから、
『潤くん、いつも楽しそうね』
そう言う友達もいたけど、それは、
ホントの自分じゃない...
あの日から...
智が消えた、
俺の前から智がいなくなったあの日から、
俺の時間は止まっていた。
一瞬だって、忘れたことなんかない...
少し猫背の後ろ姿も、
澄んだ優しい声も、
風になびく柔らかい髪も、
しなやかできれいな指も、
ふにゃんと笑った笑顔も、
絵を描くときの真剣な眼差しも、
潤...って呼ぶ甘い響きも、
敏感に反応する身体も、
甘い喘ぎ声も、
淫らな姿も、
全部、智のすべてを、
片時も忘れたことはない....
そして、
今度会えたら、渡すつもりで、
いつもボケットには、小さな箱を入れていた。
智...
俺はひとりでも頑張ってるよ。
智に恥ずかしくないように、
いろんなことに挑戦して、世界も広がった。
だから....
俺のこと、褒めに来てよ。
頑張ったね、って抱き締めてよ。
そんな毎日の繰り返しで、
俺は2年生になっていた。