第2章 アインシュタインなあいつ
「家ぇ!?」
そう言って、そいつは笑い出した。
「え?港区の一軒家って…あんたすごいじゃん!売ったら…」
「だから、売れないの!ばあちゃんかわいそうだろうが」
「え~だってもう、その大叔母さんって居ないんでしょ…?」
「んもーお前はすぐ金に走るんだから…」
「世の中、金っしょ」
こういうことを真顔で言うから、守銭奴って言われんだ…
「ばあちゃんが、旦那さんとの思い出を守ろうとしてんだ。家がだめんなるまで住んでやるよ」
昨日、その家を見に行ってきた。
古い家だったが、手入れが行き届いていて清潔だった。
和洋折衷の古き良き日本家屋だった。
庭に回ると、光がたっぷりはいるアトリエが見えた。
すごく気に入った。
庭の草木はちょっとしかなかった。
相続する人が苦労しないようにと、ばあちゃんが間引いて行ったそうだ。
本来なら、とても濃い緑の庭だったに違いない。
でも一本だけ、楠の大木があった。
その下にはベンチがあって。
俺はそこに腰掛けて家を眺めた。
うん。
ばあちゃん、俺、ここに住むよ。
主の居なくなったアトリエを眺めながら、絵を描いている自分を夢想した。
自然と顔がほころんだ。