第17章 芽
「んー…なんかね、今日は平気だった…」
鏡に向かって、ドーランを落としながら、和也が笑う。
あのリオネル演ったやつとは思えない…
普段の和也はどっちかって言うと、弟のリュカなんじゃないかな…
まだ公演は始まったばかりだったから、感想を言うか迷った。
翔くんとふたりで、なんだか手持ち無沙汰になった。
「あ、ニノ。これ…」
翔くんが差し入れを机の上に置いた。
「あ。ありがと…なあに?」
「アロマキャンドル…」
「出た!」
和也はゲラゲラ笑い出した。
「いいだろ…?楽屋でくつろぎタイムに使えや」
翔くんは得意気に言って、笑った。
「ありがと…警報ならなきゃ、使ってみるよ…」
グローブ座の楽屋は、ゆったりとした時間が流れていた。
鏡前のあたたかな照明が、和也の顔を照らす。
俺たちはソファに沈み込んで、ただ疲れた身体を感じていた。
「で。どうだった?面白かった」
「おう…」
短く答えた。
「そう」
和也も短く返した。
たったそれだけだったけど、俺は満足した。
だって、面白かった。
単純にそれだけ。
舞台の感想なんて、それでいいと俺は思ってる。