第14章 きみどり scene5
「行ってくる。絶対、部屋から出るなよ?」
さとは素早く部屋を出ていった。
後はシンとして、外の木々が風に吹かれる音だけが聞こえた。
「嘘だろ…」
こんな…こんな形でバレることになるなんて…
今すぐ駆けていって止めたい
でも、ここで終わるならもう終わりたい
そんな気持ちがせめぎ合って、気持ち悪くなってきた。
吐き気がこみ上げてきて、慌ててバスルームに飛び込む。
便座を上げると、こみ上げてきたものを吐き出した。
胃が空っぽになって出るものもなくなったら、少し気分が良くなった。
口をゆすいで、バスルームを出る。
俺も…さとを追いかけようか…
そう思って足をドアに向けた瞬間、和室から物音がした。
「え…?」
この部屋には俺しか居ないはず。
ガタンと音がして、人の気配がした。
吐いたばかりで、足に力が入らない。
動けないでいると、和室の襖が開いた。
「に、二宮さん…」
あいつだった
なんで…なんでこんなところにいる
ここは1階だ
露天風呂から侵入してきたのか…?
「さあ…帰りましょう…東京へ…」
手を伸ばして俺に近づこうとする。
咄嗟に手を払った。
「いやっ…近寄るなっ…」
ドアに向かって駆け出そうとしたが、手を引かれて床に押し倒された。