第14章 きみどり scene5
ロビーに向うと、宿泊客がちらほら見えて、ちょっとだけホッとした。
コンシェルジュのいるデスクを見つけてタクシーを頼もうと駆け寄った。
「みつけた」
声が、聞こえた
驚いて振り返る暇もなく、腕を取られた
掴まれた腕の先には、アイツがいた
「みつけた…二宮さん…」
叫びたかった
逃げたかった
でも、身体に力が入らない
「む…迎えにきました…」
その痩せこけた顔が笑った。
…さっきまで…あんなしあわせだったのに…
さとのいい匂いに包まれて…
あたたかい腕に包まれて…
さと
助けて
「なにしてんの?」
振り返ると、浴衣に丹前を着たさとが後ろに立ってた。
「…ねえ…なにしてんだよ…」
静かに歩み寄ってくる。
「離せよ」
アイツの腕をさとは掴んだ。
ぎゅっと俺の腕を掴む、あいつの細い手に力が入った。
「きゅっ…急な仕事が入ったから!二宮さんにっ」
「はあ?…そうなの?かず」
違う…仕事なんかない…
「あ、明日の朝一からロケなんです。だから…」
「かず、どうなんだよ?」
喉が張り付いたみたいに声が出ない。
「ホントですっ…二宮さん行きましょうっ…」