第14章 きみどり scene5
「かず…?」
さとの声に我に返る。
「うん…?」
「どうした?」
さらさらと前髪を撫でる手が心地いい。
「…なんでもない…」
今は…
今だけは…一緒に居させて…?
今日は、久しぶりにいっぱいご飯も食べて…
温泉にも入って、なんだか身体がゆったりとしていた。
「さと…抱っこ…」
「うん…」
ふふっと笑うと、腕枕してくれた。
そのままそっと肩を抱き寄せて、胸にぎゅってしてくれた。
「甘えっ子…」
「甘やかす人が悪いんだもん」
「悪いなんて言ってないだろ?」
「んふふ…」
ふんふんと俺の髪に顔を埋め、笑ってる。
「…もっと甘えろ」
ぎゅううっと俺を包む腕に力が入る。
「ん…ありがと…さと…」
今だけは、この腕の中に居させて…?
いいよね…
今は、ふたりっきりだもん…
さとのいい匂い…
こんな近くで嗅げるの俺だけだね…
すうっと胸いっぱいに吸い込む。
あの時…
俺のハーブ入りコーヒーを間違ってさとが飲んじゃった時
この匂いを胸いっぱい吸って
たくさんたくさん眠らせてくれたね
俺のために泣いてくれて…
かずの役に立ちたいって言ってくれて…
ほんとに、ほんとに嬉しかったよ
俺のこと…好きになってくれてありがとう