第14章 きみどり scene5
その声は、箱庭みたいな露天風呂に少しくぐもって響いた。
「…さと…」
「ごめんな…かずが頼りたいって思えるような男になれなくて…」
がばっとかずが起き上がって俺の顔を見た。
「…違うっ…」
痛いくらい、肩を掴まれた。
「そうじゃないっ…」
「かず…」
「俺が…俺のせいなんだ…」
「え?」
どこからか虫の鳴き声がする。
また木々の擦れ合う音が聞こえて…
ここが一体どこだったかわからなくなる。
「…もう…どうしたらいいかわかんねえよ…」
そのまま手で顔を覆ってしまったかずを、そっと抱き寄せた。
「ごめん…」
「なんでさとが謝るのぉ…」
「かずが苦しんでる原因が…俺にはわからない…」
「だからそれはあなたのせいじゃないってぇ…」
「じゃあかずが何かしたせいなの?」
「…それは…」
「俺には関係のないことなの?」
また、かずは黙り込んだ。
それは永遠にも似た、長い時間で…
そのまま透明なお湯に紛れて、消えてしまいたくなるような時間だった。
「…答えられないってことは、関係あるんだろ?」
「ちがう…」
「かず、嘘言うなよ」
「違うっ…これは、俺の問題なんだっ…」
近づいたと思ったら、また遠くなる。
蜃気楼の様に、いつまでも…
かずに辿り着けない