第13章 漆黒
その匂いが、欲情を掻き立てる。
だけど、その欲情に素直に従っていいのか…
この段になっても、まだ俺は迷っていた。
「男と…寝たことある…?」
「え…?」
「男と寝たこと、ある?」
「ない…」
「…そう、だよね…」
少し寂しそうに笑って、俺の手を握った。
「俺は、あるよ」
「えっ…」
「抱かれたこともあるし、抱いたこともある」
「そう、なんだ…」
ここに来て、なんでこんな心が乱れることを聞かされるんだ。
「ごめんね…言っておかないと、いけない気がして…」
申し訳なさそうに俺を見る瞳は、裏があるようには見えない。
もしかして行為の最中に、俺が余計なこと考えないように気を使ってくれたのかな…
それはそれで、ありがたいんだけど…
でも複雑すぎて、なんとも言えなかった。
この年になって、初めてもなにもこだわることはないんだけど…
俺達は男同士だから…
「ごめんね…こんなこと言って…」
「ううん…」
不器用だけど…この人なりに俺のこと考えてくれたんだろうから…
責めるなんて野暮なこと、できなかった。
それよりも…
俺の心に引っかかってる事がある。
「じゃあ、行こうか…」
俺の手を引いて、リビングルームを出た。