第13章 漆黒
~830号室~
22時―――
約束の時間は遠に過ぎていた。
でも、それでも…
少しの期待を持って、ドアキーを差し込む。
ピピッと音がして解錠されると、ノブを引いた。
部屋に足を踏み込むと、ルームライトが灯る。
少しだけ逡巡して、ベッドルームに足を踏み入れる。
真っ暗な室内。
窓から外の僅かな光が差し込んでいる。
そこには誰も居ない。
ため息をつきながら、リビングルームへと足を向ける。
扉を開けると、少しだけアルコールの香りがした。
「…居るの…?」
声を掛けても返事はない。
ため息をつきながら、ソファまで歩を進める。
「え…」
そこには、泣きながら俺を見上げる瞳があった。
座面に寝そべって、クッションを抱きしめている。
「…待っててくれたの…?」
怒った顔をして…
そしてぷいっと横を向いてしまった。
「ごめん…撮影が長引いて、抜けられなかった」
こんな日に限って、スマホの充電がなくなってしまって…
慌てて充電したけど、もう約束の時刻は過ぎてしまっていた。
すぐに電話を入れたけど、電源が入っていないというメッセージが聴こえてくるだけだった。
「ごめんね…待っててくれて、ありがとう…」