第13章 漆黒
「あげる…だけど…」
「今、このときだけ…?」
「うん…」
そっと俺の頬を両手で包んだ。
「二人で逢う、この時だけ…」
また目を閉じると、キスが降ってきた。
軽く触れるだけのキス…
だけど、甘いキス
さらさらと俺の前髪を、しなやかな指が通っていく。
「だから…今だけ…」
「え…?」
「今だけ、俺にも、ちょうだい…?」
「なに、を…」
「今だけでいい…俺に、全部…見せて…?」
シャツのボタンに手を掛けた。
ゆっくりと外すと、シャツの中に手を入れた。
俺の肩を…腕を…
そして最後に、脇にある手術の痕を…
そっとその手は撫でていった。
「ごめんね…今だけは…傍に居させて…?」
どうして…
どうして一人で居ようとするんだ…
どうして心に入らせてくれないんだ…
だけど、どうしても俺は…
この手を振り払うことができない。
「いいよ…今だけ…」
腕を引き寄せて、胸に抱き留めた。
ふんわりといつもの香水の匂いが漂ってくる。
「今だけは…全部…」
目を合わせると、じっと見つめあう。
初めて、ちゃんと目を見たかもしれない。
そのまま吸い寄せられるように、初めて俺からキスをした。