第12章 ピスタチオ fromショコラ
「ほんとにもう…頭がおかしくなりそうなんですよ…」
それでも犬に取り憑かれていない時は、まだ身体を離していられるから冷静でいられた。
でも、犬が降ってきて大野さんに飛びついてしまうと、もうだめだった。
あのいい匂いを嗅いだ瞬間、理性なんて吹っ飛んでいって。
このままだと、いつか俺…
大野さんを押し倒しちゃう…
いや、いつも押し倒して顔を舐め回して、キスまでしてんだけどさ…
そうじゃなくて…そうじゃ…
「先生…あの犬が俺に取り憑かないようにすることはできないんですか?」
「そうですねえ…あの護符がちっとも効いていないので、今のところ手段がねえ…」
前に相談に来た時、先生には霊除けの護符を頂いてる。
それは財布に入れて、いつも忘れないよう持ち歩いてる。
なんとなく、この件になると先生の歯切れが悪い。
相葉さんと翔ちゃんの時みたいに、サクサクと物事を進めてくれないのだ。
それにもちょっと苛立っていた。
「だったら…!もう八王子に行って、犬を調伏してくださいっ」
「えええっ…ちょ、調伏ですか…うう~ん…」
実際、大野さんのこと以外でも困ってることはある。
取り憑かれた後、俺は眠ってしまって暫く起きなくなる。
今は幸いないけど、その後に仕事が入っていたら大変なことになる。
事は急を要していた。