第6章 ノクターン
その翔さんが一目置く、大野さん。
ダンスが凄くて、歌もうまい。
なんでこんな人が居るんだろう。
大して興味のなかった世界だけど、なんだか面白いと思った。
あの人みたいになりたい、漠然とそう思うようになった。
毎日稽古場に行くのが楽しみだった。
なんだか知らないけど、ドラマの仕事も来たり…
芸能人を沢山見たし、楽しかった。
でも、やっぱり付け焼き刃で入った世界…
行き詰まりを感じたりもした。
そんなとき、大野さんのそばにいるとなんだか癒やされた。
俺という人間がここにいてもいいよって言ってもらえてるみたくて…
家でも、居場所がなかった。
学校でも、くだらない因縁つけられて孤立してた。
そんなとき、大野さんが京都に行くって話が出て。
正直行ってほしくなかった。
でも、大野さんが主演できるって聞いて、それも言えなくて…
あの人は世の中に出ているべきだと思った。
俺なんかよりも、あの人のほうが才能あるんだから…
もう、やめちゃおうか…
大野さんの居なくなった稽古場で何度そう思ったか。
京都にいる大野さんに電話して、思わず「帰ってきて」と言ったこともある。
それでも…俺はここに居るしかなかった。
幼い俺には、居場所はここにしかなかったから。