第5章 ロザリオ
「待ってるから、準備して?」
こくりと頷くと、翔くんはドアの中に消えた。
廊下の壁に凭れながら、俺は愛おしい人を待った。
マネージャーが楽屋の中から出てきて、俺の顔見て苦笑いした。
「じゃあ、櫻井の送り頼むよ。身体、大丈夫?」
「うん。翔くんが看病してくれたから…平気」
マネージャーは微笑むと、廊下を歩いて行った。
すぐに翔くんは着替えて出てきた。
「おまたせっ…」
「そんな慌てなくても、俺はここに居るよ」
「潤は…すぐどっか行くもん…」
手を差し出した。
「じゃあ、もう離さないで」
「うん…離さねえよ…」
ぎゅっと俺の手を掴むと、翔くんは笑った。
あの聖母の微笑み…
「早く、行こ…」
「え?」
「早く抱きしめたい」
「ばか…」
そのまま俺たちは歩き出した。
もう誰に見られたって構わない。
手を繋いだまま、身を寄り添わせて…
俺たちは歩いていく。
エレベータで、触れるだけのキスをした。
そのままぎゅっと抱き合って、俺達は目を閉じた。
翔くん、ありがとう…
エレベータの扉が開いて出ると、そこに立っている人が居た。
「あれ…」
「ニノ…」
「お疲れ様、翔ちゃん。見てたよ」
「どうしたの…」
ニノは俺の方をみて、にっこり微笑んだ。
「潤くん、良かったね…」
そう言って俺の方へ、走り寄ってきた。
「え…?」
ドンっと俺に体当りする。
「……やっぱり……だめだよ……」
何が起こったのか、わからなかった。
ニノの身体が離れていく。
キラリ、ニノの手に光るものがあった。
ニノの手の当たったところが、焼けるように熱い。
手で押さえると、ぬるりとした。
「潤っ…」
翔くんの叫ぶ声が聞こえる。
ふらり、身体がよろめいてエレベータの中に逆戻りした。