第5章 ロザリオ
「翔くん…?」
「ここから出たら…ニノのところに帰るんだろ?」
「違う…」
「俺がだめなら、ニノがいるもんな…お前には…」
「違う!翔くんっ…」
また翔くんが俺を突き飛ばした。
ベッドに倒れこんだ俺の上に、翔くんは馬乗りになった。
「また俺から逃げて行くなら…ここに閉じ込めるしかねえよな…」
「え…何言ってんの…?」
「もう…他の誰もお前のこと触れさせないから…」
「翔くん…」
翔くんはベルトを引き抜くと、俺の両手首を持って縛り上げた。
「潤…」
動けなかった。
翔くんがあんまり切ない目をしているから、動けなかった…
どこからかまた、アヴェ・マリアが聴こえてくる。
そのピアノの旋律は、俺達の間に静かに横たわった。
翔くんは俺から降りると、黙って部屋を出て行った。
取り残された俺は、呆然と縛られた両手を見た。
誰にも触れさせないって…
翔くんはまだ俺のこと想っていてくれてるの…?
ベッドに横たわると、頭がクラクラした。
まだ酒が抜けきっていない…
シャワーがしたかった。
きっと俺、酒臭いだろうな…
こんな状況なのに思うのはそんなことばかりで。
馬鹿さ加減に、自分を殴りたくなった。