第6章 高砂百合。
最近気付いた。
温室の中にある物置小屋の脇に生えている雑草群の中に、数本の百合の蕾があったのだ。
(誰かが植えたのか?)
しかし、一体誰が。
しかも雑草の中に、点在するように。
去年はなかったはずだ。
セブルスはその不思議な百合に吸い寄せられるように近づいていった。
自分が育てているイースターリリーに随分似たその蕾。
キラに聞けばわかるだろうか。
(……)
不思議なものだ。
彼女に会うまでの自分なら、誰にも聞いたりせずに本に齧りついて調べていただろう。
ついこの間14歳になったと言っていた彼女。
同級生よりも一つ年上の割りに、見た目は随分幼い。
アジア人には童顔が多いと言うが、こんな感じなのかと毎度彼女を見下ろしながら思う。
黒い髪と緑色の瞳、温かみのある肌の色。
母国語ではないからなのか、元々なのかはわからないがキラはそんなにお喋りではない。
気になることがあれば話しかけてくるが、彼女に対してそういう不快感を抱いたことはないような気がする。
放課後。
セブルスはいつものように図書室へ向かう。
ここ最近、キラは図書室に来る頻度が減った。
中庭で魔法の練習をしているらしい。
決まった席で書物を広げていると、二日ぶりにキラがやってきた。
ふと顔を上げると、かち合う視線。
キラは少し驚いたような、そんな表情を一瞬見せたがすぐにいつもの微笑を浮かべた。
そしてそのまま席について、黙々と授業の復習を始める。
放水呪文の練習はどの程度進んだのだろうか。
少し気にはなったが、ガラスペンを走らせるその手を止めるほどではない、と思ってセブルスは再び手元に視線を戻した。
「――セブルス」
「なんだ」
「少し分からないところがあるんですが」
そう言ってキラが教科書を差し出す。
そこには見慣れた筆記体が。
「分からないというより…読めない、ですけども」
「…あいつか」
キラの教科書にはダモクレスの書き込みが多数ある。
彼の字はとても特徴的で、なおかつスペルミスが多い。
それゆえ、キラはたまに解読ができずにセブルスに尋ねることがあった。