第5章 弘法も筆を選んでいる。
「こんなに匙が何本もいるんですか?」
その質問にはセブルスが答えてくれた。
「すべて素材が違う。本来であれば、調合する材料によって匙を変える必要性があるんだが…低学年の授業ではそこまで高度な内容はしないからな」
「え…ってことは、学年が上がったら…」
「匙の種類にも気をつけて調合をしなくてはならない、ということだ」
「ひぇぇ…」
「これは一般的な真鍮の匙。これが銀。こっちが銅。それと、俺は木製が好きだから、木製ー」
「え、木製?」
「ああ。俺は石の匙を使っている」
「石、ですか?」
木の匙と石の匙。
どちらも調合に向いていないように思える。
木は薬に溶けてしまいそうだし、石はすぐ割れそうだ。
「あんまり使う機会はないけどねー」
「はぁ…」
「あと、ナイフ。これは二本あった方が一々洗わなくても済むからね」
「…わぁ、すごく綺麗…使い込んでますね」
「セブルスはお手入れが丁寧だからねー、いつもピカピカだよー」
「手を切るなよ」
「はい…!」
セブルスのナイフを手に取り、顔を近づける。
鏡のようにキラの顔を映し出す。
(何だか日本刀みたい…)
と、ざら、とした感触が指先に走る。
柄の部分を見てみれば、角はすっかり取れているものの、トカゲの掘り込みがされていることに気づいた。
「セブルス、これは…?」
「ん?」
キラが指差すトカゲの紋様に、セブルスは「ああ」と頷いた。
「調合道具専門のブランド品だからな」
「専門……」
そう言われてもう一度掘り込みに目を落とす。
なんだか凄く格好良く見えてくる。
「いいなぁ…」
これを使えば調合が上手くなりそうな気がする。
「その内買ってもらいなよー。薬学好きなら皆持ってるよー」
「え、皆ですか?!」
キラが驚いて目をむくと、セブルスはくだらない、とばかりに鼻を鳴らす。
「そんな訳ないだろう」
「でもー、使ってる人が多いのは本当だしー」
「もう良いだろう、怪我する前に戻しておけ」
「ちょっと! 無視しないでよー」
「お前も、さっさと材料を出せ」
「はーーーい」
二人のやりとりにキラはくすくすと笑みを零す。
(いつか、二人と同じ物が欲しいな)
キラはナイフをもう一度じっくり眺めてから、セブルスのホルダーケースにしまった。
End