第5章 弘法も筆を選んでいる。
キラは最近気になっていることがあった。
それは、魔法薬学の授業がセブルスたちのクラスと入れ替わりのときに毎度目にするもの。
セブルスとダモクレスは、似たような皮製の包みを持っているのだ。
(お揃い…なわけないよね)
一体何なのだろうか。
そう思っていたら、とある日曜日。
温室に二人がその包みを持って現れた。
ついでに、二人はアルコールランプと五徳、鍋も持参している。
「おはよー、キラ」
「おはようございます……えと、それは…?」
「調合器具だ」
「いや、それはわかります」
セブルスがそんな冗談を言うなんて、とちょっと驚いたキラであったが、距離が近づいたのかな、と嬉しくもなる。
ダモクレスがよっこいしょ、と五徳の上に鍋を置いて、アルコールランプも設置する。
「何の薬ですか?」
「爪生え薬だ」
「つ、爪生え…?」
「爪がめくれたりとかー、はがれちゃったときに飲むんだよー」
「うっ…」
ダモクレスの説明に爪先がそわそわする。
「そ、それで、どうして今…?」
キラは爪が手のひらの中に入るように握りこぶしを作りながら尋ねた。
「いやー授業で作ったんだけどさ、時間なくてさ、色々試せなくてー」
「はぁ…」
教科書通りに作ったって面白くない!がダモクレスの言い分だ。
とはいえ、授業中に完成させて提出しなくてはならないのであれやこれや試すには時間が足りなかったらしい。
(そういえば、二人が調合するところって初めてだ…!)
色々教えてもらっているが、目の前で二人の作業を見たことはない。
「近くで見ててもいいですか?」
「好きにしろ」
「ありがとうございます!」
キラは興味津々、セブルスとダモクレスの間に入り込みその手元を覗くことにした。
「あ…」
クルクルとあの皮製の包みが開かれる。
そこには匙が四本、大きさの異なる小型ナイフが二本、形の違うピンセットが三本、細いハサミが一本差し込まれていた。
「これはね、調合に使う道具専用のホルダーなんだー」
「沢山入ってますね」
自分の持っている道具は真鍮製の匙が一本、小型ナイフが一本、ピンセットが一本、それだけを日本から持ってきた筆箱に入れている。