第4章 七夕。
「詳しいことはわからないのですが…七夕の日、願いごとをこの短冊に書いて笹の葉に吊るすと願いが叶う、ということらしいです」
「…日本人は願いごとが多いな」
「そうですか?」
「ああ。神社や寺に行くと必ず願いごとをすると言っていただろう」
「…ええ、そうですね」
「他力本願だな」
「…まぁ、神頼み、という言葉がありますからね」
「理解できん」
首を傾げるセブルスにキラは可笑しくなってきた。
何でも自力でこなしてきた彼には理解できないだろう。
「努力を全くしないというわけではありませんよ?」
「当たり前だ」
「頑張りますから、どうか神様、お恵みを…と、そういう感じです」
「…ふん」
神など信じない。
信じられるのは、自分だけだ。
得体の知れないものに祈るなど、愚かな。
セブルスはそう思いながら、ヒラヒラとはためく一つの短冊を指差して問う。
「あれには、何と書いてあるんだ?」
「緑色の短冊ですか」
「ああ」
キラは立ち上がり、セブルスが気になったという短冊を手に取る。
「あ……」
どうしようか。
このまま彼に伝えるべきか、否か。
「何と書いてある」
すぐ隣で声が聞こえて、キラは驚いて思わず短冊を後ろ手に隠してしまった。
「…なんだ?」
「あ、いえ…」
挙動不審とはまさにこのこと。
日本語で書いてあるのだから、隠さなくても良かったのにこれでは何かやましいことが書かれていると言っているようなものだ。
じっと目を覗き込まれて、キラは観念する。
(どうせ黙ってたって、開心術でわかっちゃうしね)
「…ずっと、傍にいられますように、と」
キラの言葉に、セブルスは不思議そうな顔をした。
「それは神頼みしなくてはならないことか?」
「え?」
「好きにすればいいだろう」
「…へ?」
「暑い。日に焼ける」
ぽかん、とした顔のキラをチラリとだけ見て、セブルスはそう言い残して家の中に入って行った。
(え? え? どういうこと??)
セブルスの言葉の意味に気づくまで、あと五秒。
end