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【HP】月下美人~もしもの話~

第4章 七夕。



『笹の葉 さらさら 軒端に揺れる』

 ちりん、ちりん、と鳴る涼やかな音色と、柔らかな歌声に誘われてセブルスは縁側へ顔を出す。
 浴衣を着たキラが庭で何やら細い緑色の枝のような植物の葉に小さな紙片をくくり付けていた。

「何をしてるんだ?」

 セブルスの声にキラが振り向く。
「今日は七月七日。七夕の日なんです」
「TANA…?」
「TANABATA、です。織姫と彦星が年に一度だけ会える日と言われています」
「なんだそれは」

 どの単語も耳慣れない、言いにくいもので意味がわからない。
 いつもの仏頂面にほんの少し眉間の皺が深くなる。
 キラはそんなセブルスを見て微笑んだ。

「まずは織姫と彦星という恋人たちのことについて説明しますね。この笹の葉と短冊についてはその後で」

 作業する手を止めてキラは縁側に腰掛けた。
 セブルスも彼女にならい、隣に腰を下ろす。

「織姫というのは、彼女の本当の名前ではありません。機織り…つまり布を織る仕事をしている女性だったので、織姫、と呼ばれています。そして彦星、彼は牛飼いでした。それまで仕事一筋だった彼らが出会い、恋に落ち…二人は全く仕事が手に付かなくなりました。そんな二人に神様が怒ってしまい、二人を引き離してしまいます。しかし、愛する二人を一生引き離しておくのは不憫だから、真面目に働くのであれば七月の七日の一日だけ会うことを許しましょう…と、そういうお話です」
「…そうか」
「あ、興味なさそうですね」
「理解できんな。恋に現を抜かして、というのはまぁ聞く話だが…なぜ年に一度だけで、七月七日なんだ?」
「さぁ…どうしてなんでしょうね。元は日本のお話しではなくて、中国の伝説らしいので詳しくは私もわかりません。織姫は天女だったので、私たち人間と違って一年はあっという間だったのかもしれません…そうなると彦星がかわいそうですが」
「…それで、あれは?」

 セブルスが指を指すのは短冊のかかった笹の葉。
 キラはどう説明しようか少し悩んだ。
 こうするものだ、と思っていたので由来など詳しくは知らないし、考えたこともなかった。

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