第76章 ヒソップ
それからというもの、私と野瀬の毎日の楽しみが増えた。
櫻井課長と、大野さんの恋路を見守ること…
最初は正直ちょっと面白がってた。
だって二人共、絵に描いたようにいい男なのにさ。
しかも顔だけじゃなく仕事もできて、そして何よりも人間として出来すぎている。
某巨大猫型ロボットアニメの、出来すぎたキャラのようだった。
本当にいい男過ぎて彼氏になって欲しいなどとは、私達は思えなかった。
いや、そもそも居るし。
スマン、彼氏。あまり構ってやらなくて。
他の課の女子社員の中には、果敢にもアタックする人も居たが、全て玉砕していると聞いている。
課長はバツイチ独身36歳、一個上の大野さんはこの前亡くなったお母様が病気がちで、恋愛どころではなかったと聞いている。
いい男が二人揃って独身なのは、けしからん!
さっさとくっついてしまえばよいのだ!
…なんて、野瀬と怪気炎を上げていたんだけど…
気をつけて二人を見るようになったら、そんな気持ちは消し飛んでいった。
本当に本当に、お互いのこと純粋に好きなんだなって。
見てるこっちが眩しくなるほど、二人は思い合ってる。
櫻井課長がちょっと咳をすれば、大野さんが心配げに振り返る。
そんな大野さんの顔を見て、慌てて課長はのど飴を口に放りこむ。
課長の机は中部統括課の魔窟と呼ばれていたが、大野さんが奥さんみたいに口うるさくいうと、渋々綺麗に片付ける。
そして…決まって大野さんは、下のコーヒーショップのコーヒーを課長にご褒美として買ってくるのだ。
手渡されたときの、課長の嬉しそうな顔ったら…
本当に嬉しそうに笑って、可愛らしくコーヒーを飲むのだ。
それを大野さんは、奥さんのように慈愛のある笑顔で見守っている。
まるで昭和のメロドラマをみているようだった。
いや、リアルタイムで見たことないけど。
↑一応、平成生まれ