第76章 ヒソップ
入社5年目。
事務員としてはベテランの域に達している私達。
態度が昔からでかいから、局やら大御所やらと陰で呼ぶやつもいる。
(そういう奴は決まって仕事ができない、人間としてもクソつまらないノータリンだ)
同期入社で、いろんな修羅場を一緒に乗り越えてきた戦友とも言える。
そして私達には「腐っている」という共通の趣味があった。
それを知った瞬間、私達は握手したものだ。
今では年に二度、東京ビッグサイトに出かける程の仲になっている。
だが、これは周囲には極秘になっている。
だって、私達の楽しみは…
『課内BL妄想ごっこ』
たまたま配属されたマーケティング部中部統括課。
死ぬほどラッキーなことに、課長を筆頭に見目麗しい男性が集結していた。
そんなオフィス内で、課内の男性たちを使ってイケナイ妄想をしているのが楽しいのだ。
もちろん、とてつもなくキモチワルイことだから、野瀬と私の秘密になっている。
誰にも言ったことはない。
「(野瀬…これは…)」
「(ヤバイ。綾野…)」
目で会話すると、再び給湯室内に目を戻した。
「移動の話は…もう動かないんですか…?」
「そう、だね…」
「まだ俺…課長と一緒に仕事がしたいです……課長……」
大野さんが更に櫻井課長に詰め寄り、二人の距離がキスでもしそうなほど近くなった。
「…駄目だ…」
「え?」
「これは、決まったことだよ…大野さん」
なんか…え?これ…
マジ臭くない?