第76章 ヒソップ
「い、たたたた…」
「…大丈夫…?」
給湯室にコーヒーを飲もうと入ったら、壁に凭れて苦しそうにしてる智がいた。
「あっ…課長っ…」
「ごめん…今日、早退して…?」
今朝、俺の家のトイレに立て籠もってた智を休むように説得したんだけど…どうにも言うことを聞いてくれなくて。
始発と同時に家に帰ろうとしてるから、無理やり家まで送って、そのまま自家用車で一緒に出勤した。
腰と腹が痛いんだって…
やっぱり…初めてだから…
「お願いだから、無理しないでよ…」
「だ、大丈夫ですっ…」
真っ赤になって俯いてしまった。
「午後の外回りも代わるからさ…」
「だっ…だめですっ…」
「頼むよ…」
そっと智の耳元に口を近づけた。
二人きりだから、いいよね…?
「智…言うこと聞けよ…」
びくっと智の肩が揺れて、上目遣いで俺を見上げた。
「…ズルい…」
「ん?」
「そんな声…出すなんて…」
頬を赤く染めて…メガネ越しの目は潤んでいた。
「ああっ…もう、俺、ハシタナイっ…」
「あ?」
「こんなところで欲情しちゃうなんてっ…」
「ちょ、智?」
真っ赤になって顔を手で覆ってしまった。
「欲しいなんて、思っちゃだめだっ…」
なんて…
「もおっ…ごめんなさいっ…課長っ…」
なんて…この人は、無垢なんだろう…