第76章 ヒソップ
「ちょっ…」
ベッドの上で裸のまま座ってる智を抱きしめた。
「ごめん俺…知らなくて…」
「うん…わかった…」
「立てる…?」
「うん…ちょっと、待って?翔…」
少し休んでからって大野さんが言うから、逆上せてしまったことを思い出した。
「ああ~…ごめん…マジで…」
「もお…俺も夢中になっちゃったから…謝んないで…」
アイスノンの枕に頭を載せながら、大野さんは微笑んでる。
「…こんな幸せでいいのかな…」
「え?」
「すごく…幸せだ…」
ベッドに座る俺に手を伸ばした。
手を取ると、ぎゅっと大野さんの手を握りしめた。
「…今まで…」
「ん…?」
「あんまり恋愛に本気になれなくて…誰かを好きになっても、母さんが入院するとそれどころじゃなくなって…」
「うん…」
「諦めてたんだ…どっかで…」
「そっか…」
長い前髪が目に掛かっていたから、そっとどけて額にキスをした。
「ん…でも、翔のこと…諦めたくなかった…」
「うん…」
「男同士だから、翔と幸せになれるとは思わなかったけど、でも翔の役に立ちたいって…ただそれだけでいいって…そう思ってたのに…」
「智…」
目がみるみる潤んできた。