第76章 ヒソップ
もしかして───
目を閉じた。
ひとつ深呼吸すると、そっと大野さんの肩に手を掛けた。
目を開けると、まっすぐに見つめ返した。
もしかして、大野さんは───
「あなたが、好きだ」
心臓がありえないほど、鼓動してる。
「好きだから、キスした…」
俺と同じ気持ちなのかもしれない───
「男性にこういう気持ちになるのは初めてで…どうしていいかわからなかった…」
ひとつ、コクリと大野さんは頷いた。
それから俯いて、俺のTシャツの裾を掴んだ。
「うれ…しい…」
「…え…?」
「嬉しいです…」
肩が震えて…声が震えて…
「大野さん…」
震える手で大野さんの頬を包み込んだ。
顔を上げさせると、眉をハの字にして…
綺麗な涙を流していた。
「俺も…好きです…」
親指で涙を拭うと、もっと綺麗な雫が零れてくる。
「好きです…」
「うん…」
「ずっと…初めて会ったときから…」
「俺もだよ…」
「どうしていいかわからなかった…俺も、男の人好きになるの初めてで…言えなかった…」
ぽろりとまた、涙が溢れた。
「だからあの時、キスしてくれて…嬉しかった…」
漆黒の目は、俺をじっと見つめると…
ゆっくりと閉じられていった。
身体の芯が沸騰したみたいになって、震えてくる。
吸い込まれるように、唇を重ねた。
ああ…好きだ…
触れてしまったら、もう止まらない
大野さんが、好きだ