第76章 ヒソップ
そうか…そうだったのか…
ステップアップやキャリアアップするのに、別にそんなきっちりと会社に義理立てしなくてもいいのに。
そういうとこは、全然アメリカナイズされてなくて。
なんだか大野さんらしい考え方だと思ってしまった。
「ま、まあ…だったらいいんだけど…」
「良くないです」
「へ?」
また大野さんが一歩、俺に近づいてきた。
「移動の話は…もう動かないんですか…?」
まあ…そうだろうな…
将来の部長候補として、今いる課長たちをぶっちぎっていくことになる。
でもそれに誰も異論はないと思う。
俺がそのように仕向けたのもあるし、部長も他の課長たちも、大野さんの実力は嫌というほど認めている。
「そう、だね…」
ガッツリと決まった基本路線は、動くことはないだろう。
「まだ俺…課長と一緒に仕事がしたいです」
どきっとした。
「課長…」
切ない目で見上げられた。
「…駄目だ…」
そっと目を逸らす。
「え?」
また、触れたいと思った。
「これは、決まったことだよ…大野さん」
抱きしめたい。
めちゃくちゃにキスしたい。
その細い首筋にかぶりつきたい。
「俺の一存じゃなく、部長やその上の人たちが決めたことだから…」