第76章 ヒソップ
大野さんの眉が、ハの字になって。
メガネの奥の瞳が、少し潤んだ。
「も…大丈夫…です…」
「そっか…」
そのままの距離で、俺たちは暫く見つめ合った。
潤んだ瞳に、艷やかな紅い唇…
一刻も早く目を逸らさないと、絶対やばい。
やばいってわかってるのに…
少し、顔を近づけた
その綺麗な目を、もっと近くで見たくて
大野さんは逃げない
もう少し、近づいた
息が掛かるくらい…近づいた
「課長…」
大野さんの唇が動いた瞬間、何も言わせたくなくて
キスをした
どこをどうやって帰ってきたのかわからない。
気がついたら、家に帰ってシャワーをしていた。
「だぁぁぁぁぁ~~~~~…」
ユニットバスの壁に頭を打ち付けて、後悔した。
「何をやってんだ俺はぁぁぁ~~~~…」
ガンゴンぶつけてみたところでなかったことにはできないが…
その週末は、思い出しては悶えていたから外に出ることもできず。
月曜日、恐る恐る出社して…
大野さんの顔を見るのが怖かった。
でも、拍子抜けするほどいつもどおりで。
穴があったら被っていたいほど恥ずかしかったが、救われた気分でなんとか仕事をこなすことができた。