第76章 ヒソップ
「どこ…行こうか…」
西新宿のビル群の中を、大野さんと二人で肩を並べて歩いた。
まだ日は暮れきっていなくて、空は少しだけ明るい。
昼間みたいに明るい街の隙間から、空を眺めながら歩いた。
じわじわと足元から昇ってくる熱気は、衰えることなく。
少し歩いただけで汗まみれになる。
「そうですねえ…俺、誘ったはいいんですが、実は店を全然知らなくて…」
「そうだよね…」
大野さんにしては珍しく、計画性もなく誘ったらしい。
「じゃあ俺の行きつけの居酒屋でもいい?」
「はい!」
JR新宿駅の西口。
ごちゃごちゃ雑居ビルが立ち並ぶ。
その中でもひときわ古いビルに入った。
「おばけでも出そうだけど、大丈夫だから」
「はい…」
蔦に覆われた装飾の入り口を入ると、地下へ伸びる階段を降り、扉を開けた。
「いらっしゃいませ」
ここは、俺が学生時代からある店で。
部下や同僚は連れてこないようにしてる秘密の店だ。
顔なじみの店員が、個室まで案内してくれた。
「わあ…なんかすごい」
大野さんが感嘆の声を上げた。
個室と言っても、大きな樽なんだよね。
味噌蔵とか酒蔵にあるような、大きな樽を個室に改造してある。