第76章 ヒソップ
気がついたら、夕方で。
外回りから戻ってきた課員たちで、オフィス内は活気づいていた。
いろいろ話しかける者も居たが、一種独特のバリアーが張ってあるような大野さんの周囲には、あんまり長居はできないようで。
一度、部下たちが言っていた。
大野さんには近寄りがたいと。
絵に描いたようなエリートな経歴を持っているから、どんな鼻持ちならない奴が来るかと思ったけど、全然そんなこともなくて。
すごく親しみやすくて、穏やかなオーラが出ているのに、なぜか踏み込めない物がある。
ただ、それは嫌な意味ではなく。
自分なんかが話しかけていいのだろうか、と思わせるような神々しい物を感じる。
大野さんが笑ってくれたら嬉しい。
褒めてくれたら頑張れる。
だから、近寄りがたいのだけれども、不思議と大野さんのために仕事をやろうと思えるのだ、と。
俺の立場が全くないじゃないかと、その部下たちとは笑った。
でもそれを聞いたとき、大野さんの魅力に気づいているのが俺だけじゃなかったって寂しさと同時に…安心もした。
男性にこんな気持ちを抱いてしまう俺が、おかしいんだと思ってたけど。
男性も女性の部下にもそう思わせるものを、やっぱり彼は持っていたんだ。