第76章 ヒソップ
すごく焦った…
部長が俺の気持ちなんて知るはずもないけど、なんだか見透かされたようで、めちゃくちゃ焦った。
「まあ、今はそんなこと考える暇もないだろうから」
「え、ええ…」
「葬儀のことは頼んだ。櫻井に任せるから。俺は明日から出張だしな…本葬だけなんとか戻るから」
「わかりました」
その週末、大野さんのご母堂の葬儀が営まれた。
やはりうちの会社からは手伝いを出すこともなく、俺を含めた部署の者たちは個人的に参列をすることになった。
ちらりとしか大野さんとは話をすることができなかったけど、思ったよりもしっかりとしていて安心した。
肉親の忌引ということで、大野さんは一週間近く休んだ。
その間、スマホを手放すことができなくて。
また、泣いてたらどうしようって…
でも、プライベートのスマホは、一度も鳴ることはなかった。
まあ、そうだよな。
普通に考えて…
ちょっと抱きしめたくらいで、何考えてんだ…
そうは思っても、なかなかスマホから離れられなくて。
風呂に入ってる間も気になって、脱衣所にスマホを置いている始末で…
こんなこと…別れた嫁さんのときでもなかったのに…
俺、どうしちゃったんだろう