第76章 ヒソップ
「必ず…連絡します」
胸ポケットを押さえて微笑んでくれたから、安心した。
幾分しゃきっとした足取りの大野さんを見送って社に戻った。
すぐに部長に呼ばれて、ミーティングルームで少し話をした。
「すいませんでした。遅くなって」
「いや、いい。で、どうだった、大野くんの様子は」
「やはりちょっと…ショックを受けていて…」
「まあ、わかっていたこととは言えな…」
「そうですね…」
どんな規模の葬儀になるかはわからなかったが、もしも必要なら課員を数人出すようにという指示を受けた。
「ま、お父上の会社のほうで人数出すんだろうがな…」
「そうですね」
「葬儀のこと、わかったら連絡くれ」
「はい、わかりました」
部長は持っていたタブレットに目を落とした。
「…昇進は…しばらく保留にするか」
「え?」
「なんやかやと忙しいだろうからな…」
「そうですけど…」
「もしかして、アメリカに戻るかもな…」
日本に戻ってきた理由が、ご母堂のことだったから…
「そうなったら、櫻井寂しいだろ」
「は、はあ?」
「ほんと、おまえは大野くんに肩入れしてるからなあ」
「いえ、だって本当に優秀なんで…」