第76章 ヒソップ
俺よりも出世するんだよってさ…
俺が妬んでるみたいに聞こえたら、嫌だ。
妬んでは居ないけど、寂しいからどんな表情をしていいかわからない。
変に誤解されたら堪らない。
だから部長から伝わるのが一番いいんだ。
でも、内心はちょっとホッとしている。
心から望んでいたことでもあるけど、もうこれ以上我慢できそうもなかったから。
「…もしかして…」
そう、大野さんが言い掛けたとき、大野さんのスマホが鳴った。
プライベートのスマホだった。
「あ、すいません…」
ちょっと焦ったようにスマホを掴むと、大野さんは店の外に出ていった。
そのまま、大野さんは暫く帰ってこなかった。
気になって、トレーを片付けてから外に出てみたら、駐車場の車の前で、大野さんは立ち尽くしていた。
「大野さん。どうしたの」
声を掛けたけど、動かない。
「大野さん?」
肩に手を掛けた。
すごく熱くなっていた。
「ちょっと、熱中症にな…」
顔を覗き込んだら、真っ青だった。
「大野さんっ!?」
肩を持って揺さぶると、やっとメガネの奥の目の焦点が合った。
「あ…課長…」
「どうしたんだ?気分が悪いのか?」
言いながら、車を解錠して助手席に押し込んだ。