第76章 ヒソップ
そうなるように仕向けたのは俺だ。
彼がどんなに優秀か、どんな能力を持っているのか。
一年間アピールし続けたのは、他でもない俺だった。
事実、彼は俺の持ってるものすべて吸収して、更に新しいものを出してくる。
やはり、俺とは頭の作りが違うんだと思う。
その発想は、天才的でもあった。
頭の硬い俺では出てこないものが多くて。
惚れた弱みもあって、絶対この人には敵わないって思ってる。
「……寂しくなるなあ……」
「え?」
アイスコーヒーを飲んでいた大野さんが、驚いたように顔を上げた。
「…課長?」
「あ、いや…なんでもない」
「なにかご存知なんですか」
彼にしては、驚くほど鋭い口調で問い詰めてきた。
「なんでもないよ」
「でも今、寂しくなるって言いました。俺、どこか他に飛ばされるんですか?」
「いやいや、違う…」
「知ってるんだ」
しまった。
つい、誘導に乗っかってしまった。
「いや…その…」
「言って下さい」
「でも人事に関することだから…」
「言って下さい」
とても、怒ってるように見えた。
「ど、どうしたの…大野さん…」
笑ってごまかすしかなかった。
だって、言えないだろ…