第76章 ヒソップ
大野ナビで着いたコーヒーショップは、偶然にもうちの会社のビルに入っているのと一緒だった。
「馴染みの茶屋でございます」
「大野さん、外ではやめよ…」
「あ、はい…」
シュンとしちゃうとこもかわいくて…
つい、鼻の下が伸びてしまう。
路面店の中からは、今走ってた国道が見渡せて忙しない。
反対側にはちょっとした庭があって、その庭を見渡せる窓際の席がちょうど空いていたから、そこに陣取った。
周りには昼下がりのティータイムを楽しむ主婦や、遅いランチを済ませるサラリーマンなんかも居て、ざわざわとしている。
「いい席空いてましたね」
「ああ」
大野さんは、こういうちょっとしたしあわせを噛みしめる事が多い。
「今日はいいことありそうだ」
「え?」
「いえ…部長から今朝、お話あるって聞いて…なんかやな予感しかしてなかったんですけど」
「あ、ああ…」
もしかして…
ある予感が、俺の胸を過った。
「…きっと、いい話なんじゃない…?」
昇進の話だと思った。
部長から、それとなく打診はあった。
でもそれは…大野さんが、この課を出ていくということと、イコールだった。
中部統括課の課長代理から、マーケティング部の部長付きになる。
そして、その先は…俺の上司となるべく、数年の修行が必要になるだろう。