第76章 ヒソップ
「あっちーな…」
今年の夏は、激アツで。
パタパタと手で扇いでも暑い。
「課長、団扇どうぞ」
助手席から、大野さんが団扇を差し出してくる。
「扇いで」
運転中だから、扇げるわけがない。
「はい」
そんなことわかりきってて、大野さんは茶目っ気たっぷりに笑って、俺を扇ぎだす。
「殿、いかがでしょう」
「おお…余は満足じゃ」
「お褒めに預かり光栄でござる」
最近、大野さんは時代劇にハマってるとかで…
ふたりでいるとき、殿と家来ごっこがなぜか流行っている。
なんでか知らないが、大野さんが家来役のことが多い。
「大野。余は喉が渇いた」
「ははー。コーヒーショップをお調べいたす」
もう言葉遣いなんかめちゃくちゃなんだけど…
何時代かもよくわからない。
でもアメリカ生活が長かったから、日本的なものにどうも弱いらしく、このブームは梅雨頃からずっと続いている。
外人の忍者好きと一緒なのかなと思ってしまう…
大野さんは助手席でスマホを取り出すと、店を調べ始めた。
「殿、こちらのコーヒーショップはいかがでしょう」
「相わかった。ナビをせよ」
「かしこまりました。そちらを右でござる」
「うむ」