第76章 ヒソップ
次の日から、俺と大野さんは常に行動を共にした。
多分、来年には彼の役職が俺並に上がるだろうから、この一年は予行練習期間でもあると勝手に解釈して。
あれもこれも、大野さんに俺の持ってるものを渡したかった。
だって…俺のできることって、そのくらいしかない。
こんな気持ちを持ってること、知られたくないし。
でも何か彼の役に立ちたい。
だから…彼が俺を飛び越えて出世するのなら、それもいいと思ったんだ。
彼を助けていこうって。
事実、大野さんは俺よりも優秀だった。
人当たりのいい笑顔の下に、よく斬れるナイフを持ってて。
俺みたいに情に流されるようなところはなかった。
冷静に、今がどんな状況か見極めて判断する能力は、俺よりも高い。
それが会社にとってどう利益をもたらすかのシュミレーションも、俺よりも見通しがよく利いて正確だった。
これじゃ辞める人みたいですからやめてくださいと大野さんに言われるくらい、俺は次々に大野さんにいろいろと教え込んだ。
彼が入社して一年経つ頃には、もう課長代理まで昇りつめていて。
一足飛びの昇進に誰も異議を唱えるものは居ないほど、課の連中の心も捉えていた。
そして、俺の心も…
がっつり捕まえて、離さない。
そして、一年後───
その時は、突然やってきた