第76章 ヒソップ
俺は不器用だから…
いっぺんに色んなこと、できない。
親からはせっつかれているが、独身を通そうと思っている。
不幸な人を増やしたくないから…
「大野さん」
「はい」
「もう定時なんで…上がっていいですよ。課の者への紹介は明日の朝します」
「あ、はい。わかりました」
「それと、明日は俺の外回りに同行してもらいますんで。そのつもりで居て下さい」
「課長…」
「ん…?」
「また、敬語…」
「あ」
くすくす笑う大野さんの首筋はほっそりとしてて。
思わず触りたいななんて思ってしまって。
はっと気づいた。
俺…?
「わかりました。外回り、ですね」
笑いながら俺を見上げた大野さんのメガネ越しの目が、とても綺麗で。
心臓がドキドキと煩い。
「ああ…」
惚れたのか
その日はベッドに入ってもよく眠れなかった。
別にLGBTに差別意識をもってるわけじゃないけど、まさか自分が男に惚れるとは衝撃的で。
「嘘だろぉ…」
ゴロゴロとベッドで悶えながら、大野さんのほっそりとした体躯を思い出しては赤面した。
触れたい、なんて思ってはいけないんだ。
部下だし、相手は男性だ。
「生き地獄じゃねえかよぉ…」
しかも、たった半日しか一緒に過ごしていない。
そんな惚れっぽい男だったんだろうか。
俺…