第76章 ヒソップ
「今日配属された、大野くんだ。よろしく頼む」
ミーティングルームには部長と俺を含む課長たちが集まった。
やはり相当期待されているらしい。
その彼は、さっきはしていなかったメガネを掛けて、ニコニコと部長の横に立っている。
「このマーケティング部では、若手の課長が活躍している。その中でも一番の若手だ。中部統括課の櫻井課長。大野くんより若い」
そう言って、俺の方を部長は見た。
「はい」
「今日から、彼についてもらうから」
大野さんは、俺を見ると薄く微笑んで頭を下げた。
「櫻井です。よろしく」
すっと手を差し出された。
やはり、アメリカナイズされてる。
「よろしくお願いします」
ぎゅっと握手しておいた。
他の課長たちの紹介も終わると、部長たちは引き上げていった。
ミーティングルームには、俺と大野さんの二人きりになった。
「…コーヒーでも飲みますか?」
「いえ…課長、敬語はやめて下さい」
「え?」
「僕のほうが年は上ですが、部下ですので…」
「ああ…そうです…だね…」
くすっと笑われてしまった…
一個上というのもあるし…なんだか、この人には安易に言葉を発してはいけない雰囲気を勝手に感じてしまった。
だからつい敬語になってしまって…
「じゃあ…先程も部長から説明があったんだけど…」
早速、用意しておいた資料を見せながら部署の説明から始めた。